更生保護ボランティアの実証的研究——過去・現在・未来——   [Microsoft Wordファイル:107kb]

鴨志田康弘(立正大学・非)

1.はじめに

1997年の神戸連続児童殺傷事件の加害者が,今年,関東医療少年院を仮退院し,保護観察下に置かれることがメディアで大きく取り上げられるなど,現在,加害者の更生と保護観察のあり方などが改めて問われてきている。それは,被害者・遺族の権利——情報公開など——の意識の高まりと同時に,社会一般に広がる漠然とした不安感の現われではないかと思われる[1] 。こうした被害者の人権・権利の問題は,加害者が少年か成人か,また,その罪種——どのような犯罪が行なわれたか——によっても異なるものであり,簡単に答えの出せる問題ではない。したがって,本研究では,その点については言及しないこととし,もう一つの論点である更生保護,特に,それを支えているボランティア——ここでは保護司と更生保護女性会——に着目し,その現状や課題などについて明らかにしたいと思う。それは,こうしたボランティアの存在を少しでも明らかとすることが,漠然とした不安感の払拭に少しでもつながるのではないか,また,それによって,少しでも何がしかの解決への糸口が見えてくるのではないか,と思われるからである。

2.更生保護及び更生保護ボランティアについて

更生保護とは;「犯罪者や非行少年が社会の中で健全な社会人として更生するように指導・援助すること及びその制度」[2] を指すものであり,それを担っているのが国家公務員の保護観察官であり,非常勤の国家公務員の保護司(であり,それをサポート・援助するのが),更生保護女性会,BBS会であり,そして,協力雇用主である。つまり,更生保護は,国家的にも非常に重要な役割(犯罪者・非行少年の社会復帰)を担うものでありながらも,これまで公に民間の協力を要請してきた非常にユニークなシステムであるということができる。保護司は,法務大臣から委嘱を受けた民間の篤志家であり,全国905の保護区に配置されている。保護司の定数は,保護司法で5万2500人を超えないものとされている(保護司法第二条二項)が,平成15年1月現在,4万9205人となっている。更生保護女性会は,保護司のように委嘱されるといったことのない,全くのボランティア団体であり[3] ,平成15年4月現在で1338地区会(地区会とは各市区町村レベルでの会),20万4760人となっている。(ちなみに,BBS会は,平成15年4月現在で571団体,6169人。協力雇用主は,平成15年4月現在で個人・法人あわせて5050である。)

a. 保護司について

保護司法上の定義

第一条 保護司の使命;保護司は,社会奉仕の精神をもつて,犯罪をした者の改善及び更生を助けるとともに,犯罪の予防のため世論の啓発に努め,もつて地域社会の浄化をはかり,個人及び公共の福祉に寄与することを,その使命とする。

第九条 服務;保護司は,その使命を自覚し,常に人格識見の向上とその職務を行うために必要な知識及び技術の修得に努め,積極的態度をもつてその職務を遂行しなければならない。
(また)保護司は,その職務を行うに当つて知り得た関係者の身上に関する秘密を尊重し,その名誉保持に努めなければならない。
→保護司というのは,法律上,「社会奉仕の精神を持ち」,「犯罪者の改善・更生を助け」,「世論の啓発に努め」,「地域浄化をはかり」,「個人及び公共の福祉に寄与すること」が「使命」であるとされる。そして,「常に使命を自覚し」,「人格の向上に努め」,「処遇に必要な知識の取得に努める」ことが求められ,さらに,「犯罪者(対象者)の個人情報に関する守秘義務」を負っているということなのである。

では,これに対して,保護司にはどのような見返りが期待できるのであろうか。

第十一条 費用の支給;保護司には,給与を支給しない。
(また)保護司は,法務省令の定めるところにより,予算の範囲内において,その職務を行うために要する費用の全部又は一部の支給を受けることができる。
→つまり,保護司は非常勤の国家公務員とされてはいるものの,実質的には無給であり,対象者の面接に刑務所や少年院に行く際の交通費が支給されるだけであるという[4]。つまり,このような点から考えるに,保護司というのは全くのボランティア精神によって成り立っているものと思われ,まさに,「篤志家」と称される所以であると思われる。

保護司の主な職務;対象者(犯罪者)の更生保護と犯罪予防活動
対象者の更生保護;少年に対する保護観察処分(1号観察,少年法24条1項1号,予防更生法3条1項1号)及び少年院仮退院(2号観察,予防更生法33条1項2号)
成人に対する仮出獄(3号観察,予防更生法33条1項3号)及び保護観察付執行猶予(4号観察,刑法25条ノ2第1項,執行猶予者保護観察法)
婦人補導院仮退院(5号観察,売春防止法26条)[5]の5種類
具体的な内容;刑務所や少年院に入所・入院している対象者の面接と受け入れ先となる家族の面接などの帰住予定地の環境調整,及び,仮出獄・仮出所した対象者の面接(往訪・来訪)

→これらの職務を保護観察官とともに行なうこととなっているが,保護観察官は事務処理に追われ,処遇計画を立てた後は,実質的に全て保護司に委ねているような状況である。

簡単な歴史;このような,現在の保護司制度の始まりは,江戸時代の「加賀藩非人小屋(1669)」,「石川島人足寄場(1790)」(無宿人や軽犯罪者に対する更生保護の意図を持った寄せ場など)などが起源とされるが,現在の保護司制度の直接の起源は,池上雪枝によって明治16年(1883)に大阪で設立された「感化院」(主として,少年を対象),金原明善,川村矯一郎らによって明治21年(1888)に静岡で設立された「静岡県出獄人保護会社」(成人の出獄人対象)であるとされており,特に,静岡県出獄人保護会社では,免囚保護施設の運営と同時に,静岡県内全域で1700名を超える保護委員を委嘱し,これが保護司制度の草分けとされている。このように,更生保護の分野では,その草分けの段階から,民間人による関与が見られることが特徴となっている。現在の保護司制度は,戦後すぐの昭和24年(1945)7月に施行された犯罪者予防更生法(嘱託少年保護司,司法保護委員)に始まり,昭和25年(1950)5月に施行された保護司法によって,現在の姿となった。

b. 更生保護女性会について
成り立ち;更生保護女性会は,昭和29年7月に「社会を明るくする運動」の中央行事の一環として,東京都旧赤坂離宮で開催された「全国更生保護婦人代表者会議」を契機とし,順次,各地で設立されていった。今回,調査を行った茨城県更生保護女性連盟の場合,同会議に2人の代表者(水戸市と日立市の女性保護司)が参加したことにより,同年8月に水戸市で,翌年1月に日立市で結成されたのを皮切りに,県内各地で結成され,平成14年段階で,36地区2063名を数える。同会は,当初,犯罪者予防更生法(Offender Prevention and Rehabilitation Law)の影響から,その頭文字を取って,オパール婦人会と称するものの,後に,更生保護婦人会,さらに,平成15年5月に日本更生保護女性連盟と名称変更したことから,現在,正確には,同会は更生保護女性会と称している(しかし,地区レベルでは,〜更生保護婦人会,〜更生保護女性会,また,〜オパール会などと,必ずしも統一されてはいない)。

更生保護女性会の活動;更生保護施設(刑務所や少年院を出所・退院したものの,受け入れ先がない人を受け入れる施設)への援助協力,また,刑務所や少年院などの矯正施設収容者への援助,ミニ集会(地区ごとに,通常,数名から数十名程度で行なわれる,それぞれの地域の住民などを交えた話し合い。テーマは更生保護に限らず,家庭やいじめ,子育てなども取り上げている)や募金活動を通じた更生保護思想の普及・啓発活動などが中心となっている[6]。また,近年では,従来の更生保護活動の枠を超えて,子育て支援活動に積極的に乗り出し,活動の大きな柱としている。 
  ↓
このように更生保護女性会は,保護司とは異なり,専ら社会一般に対する一般予防を目的とした活動を行う比較的緩やかな団体であるということができる。しかし,近年の各種ボランティアやNPO活動の普及,また,平成11年に昭和43年から続いていた法務省保護局長通達(育成指導通達)が廃止されたことにより,より自由に活動ができるようになった一方で,今後,他との差別化がよりいっそう求められてくるのではないかと思われる。

3.アンケート調査について

平成15年12月から16年2月にかけて,本研究では,茨城県更生保護女性連盟会員600人,東京都保護司会連合会の江戸川区保護司会葛西分区80人,豊島区保護司会15人,茨城県保護司会連合会の水戸地区保護司会65人を対象として,アンケート調査を実施した。ちなみに,更生保護女性会の現在の会員数は,204,760人であることから,今回の600人という数字は600/204760=0.293≒約0.3%,保護司の160人という数字もまた160/49205=0.325≒約0.3%となっている。回収率は,更生保護女性会が380(回収率63.3%),保護司会が102(回収率63.8%)である。

a. 活動の現状及び認識
?保護司になった/更生保護女性会に入会したキッカケ
保護司更生保護女性会
自ら進んで入会した6.95.0
家族からの勧め3.02.4
友人・知人からの勧め60.467.8
近隣住民からの勧め5.93.7
行政関係者からの勧め12.915.0
その他10.96.1

※(%),N=保護司;101,更生保護女性会;379,SA

?保護司になった/更生保護女性会に入会した動機
保護司更生保護女性会
更生保護活動に関心があった33.028.7
少年の健全育成に関心があった58.044.4
国家・社会の役に立つ活動に関心があった25.016.2
知り合いの保護司/更生保護女性会員の活動を見て13.022.3
地域の安全を守るため19.014.6
何となく2.010.9
その他7.08.2

※(%),N=保護司;100,更生保護女性会;376,MA

?実際に活動を始める前後で,活動に対するイメージに違いはあったか
保護司更生保護女性会
肉体的に大変である16.87.7
精神的に大変である61.439.4
周りからのサポートがあった20.832.3
周りからのサポートがなかった5.93.2
特に違いはなかった20.824.1
なんとも言えない6.910.3
その他11.95.8

※(%),N=保護司;101,更生保護女性会;378,MA

「精神的な負担」について,保護司の「ひと月の活動頻度」と比較した場合
1〜5日未満5〜10日未満10日以上それ以外
精神的に大変である58.756.490.960.0

?保護司活動上,最も気をつけていること
保護司
対象者との関係86.1
対象者のプライバシー86.1
行政機関との関係19.8
地域住民との関係31.7
世論の動向10.9
被害者との関係28.7
その他2.0

※(%),N=保護司;101,MA

?今後,取り組んでみたい活動
保護司更生保護女性会
矯正施設に対する支援13.032.4
更生保護会に対する支援18.029.0
防犯活動・パトロール42.016.2
違法薬物などに関する教育・啓蒙58.024.7
社会を明るくする運動への参加70.062.0
被害者問題の理解22.08.8
被害者支援6.04.0
子育て支援・少子化対策24.072.6
広報活動20.07.2
講演会・勉強会の開催21.029.3

※(%),N=保護司;100,更生保護女性会;376,MA

?現在の活動に対する自己評価
保護司更生保護女性会
非常に上手く行っている6.97.3
まあ上手く行っている42.242.9
少し見直すべき点がある28.432.9
非常に見直すべき点がある4.92.4
分からない7.87.5
なんとも言えない9.87.0

※(%),N=保護司;102,更生保護女性会;371,SA

?地域定住率を見た場合,20年以上の割合が双方とも大半を占めており,保護司の場合は91.2%,更生保護女性会の場合は93.4%と,非常に高い割合を示している。

b. 犯罪・非行について
?犯罪・非行の原因と思うもの
保護司更生保護女性会
一般的な心の問題(心の問題,道徳心の欠如)73.070.7
犯罪に関する心の問題(羞恥心,罪悪感の欠如)48.049.1
家庭の問題(しつけ,親子関係の問題)82.080.3
学校・地域社会の問題26.022.7
メディアの問題32.035.2
その他15.017.9

※(%),N=保護司;100,更生保護女性会;375,MA

?犯罪や非行の解決には何が重要であると思うか
保護司更生保護女性会
家族関係の見直し50.053.2
地域のつながり・連帯感46.042.3
社会全体の見直し18.031.0
学校教育の見直し23.018.5
警察官の増員29.015.6
道徳・修身教育18.023.0
暴力的な映像・情報の制限16.023.8
対話を通じた理解18.016.4
地域防犯活動19.013.0
厳罰15.016.9
罪悪感を持たせる11.010.6

※(%),N=保護司;100,更生保護女性会;378,MA

c. 被害者について
保護司更生保護女性会
平均値標準偏差平均値標準偏差
経験上,加害者は被害者の状況に関心があると思いますか3.021.202.911.27
被害者の状況や気持ちを伝えることは,加害者の更生に役立つと思いますか4.390.794.290.96
あなたは被害者の置かれている状況・権利などに興味はありますか4.380.844.190.96
あなたは,被害者支援活動をしてみたいと思いますか3.750.953.661.02
現在の法律は,被害者よりも加害者の権利を優先してしまっていると思いますか4.170.964.120.96

※「そう思う/ある」から「そう思わない/ない」までの5段階尺度で計測した平均値。値が大きくなるに従って,設問を肯定する度合いが高いことを示している。

?どのような状態になれば対象者は真に更生したと見なしえるか
保護司更生保護女性会
刑期や矯正施設を終えたとき12.011.0
社会に受け入れられるようになったとき58.056.7
自らの行いに対して羞恥心を覚えるようになったとき48.044.1
真に自らの罪に向き合うことができるようになったとき77.075.8
被害者に対して謝罪を行なったとき37.036.4
被害者に対して賠償を行なったとき27.016.0
被害者に赦してもらえるようになったとき16.023.8
分からない36.044.1
地域防犯活動02.5
その他3.00.6

※(%),N=保護司;100,更生保護女性会;363,MA

?更生するにあたって,対象者が最も望んでいると思われるもの
保護司更生保護女性会
就職・社会復帰すること90.077.6
被害者からの赦し55.060.2
自分の家族からの赦し41.043.6
地域社会に受け入れられること77.083.1
再び以前の仲間に戻ること2.03.3
罪を消し去ってしまうこと5.05.0
分からない2.05.0
その他2.00.6

※(%),N=保護司;100,更生保護女性会;362,MA

?対象者が更生するために重要だと思われること
保護司更生保護女性会
厳罰を科する11.017.7
矯正教育・施設の充実・強化41.039.6
仕事や社会的役割の提供63.051.2
精神的な治療・カウンセリング23.041.8
加害者の家庭環境の見直し・親の再教育65.062.3
加害者の友人・知人関係の見直し30.024.7
地域社会の建て直し5.06.6
道徳・情操の教育19.024.1
被害者感情の理解40.019.9
分からない01.7
その他 00.3

※(%),N=保護司;100,更生保護女性会;361,MA

?更生保護活動を行なう中で対象者の理解に苦しんだ経験
あった少しあったあまりなかったなかったなんとも言えない
保護司44.031.016.009.0

※(%),N=保護司;100,SA

e. 修復的司法について
?修復的司法に関しては,次のような説明文を記し,それに対する反応を見るという形を取った。
説明文
「近年,我が国でも被害者の人権に注目が集まりつつあり,徐々にではありますが政策の中にもそのような関心事が反映されつつあります。しかし,諸外国の中には,もっと直接的に被害者の声を刑事司法に反映させようとする試みが行なわれているところがあります。それは,被害者と加害者とが直接対面し,お互いに誠心誠意話し合うことで,被害者は回復へ,加害者は更生へと向かうようにし,場合によっては,和解に至る解決策を模索するような試みです。そして,このような対面対話は,被害者と加害者と仲介者の三者間で行われたり,さらに,両方の家族・友人,地域の住民などが参加して行なわれたりします。この話し合いは,あくまでもそれぞれの人たちの意思を尊重したもので,決して強制的になされるということはありません。また,この話し合いが決裂した場合には,通常の司法手続きを利用するといった権利が保証されています。」

?対象者が更生するために重要だと思われること
保護司更生保護女性会
平均値標準偏差平均値標準偏差
このような話し合いは被害者の回復に役立つと思いますか3.771.033.681.04
このような話し合いは加害者の更生に役立つと思いますか3.831.083.790.99
このような話し合いは地域住民の安全・安心に役立つと思いますか3.561.043.531.11
このような話し合いは,被害者を結果的に傷つけることになってしまうと思いますか3.030.922.941.06
このような話し合いは,加害者を結果的に差別してしまうことになると思いますか2.790.962.611.06
このような話し合いは,地域社会の住民にとって負担になってしまうと思いますか2.891.022.851.10
あなたが,もし被害者となってしまった場合,このような話し合いに参加してみたいと思いますか3.561.123.591.30
あなたが,もし犯罪の起こった地域の住民となった場合,このような話し合いに参加してみたいと思いますか3.611.043.531.17

※「そう思う」から「そう思わない」までの5段階尺度で計測した平均値。値が大きくなるに従って,設問を肯定する度合いが高いことを示している。

?修復的司法の実施場面
保護司更生保護女性会
警察が逮捕・補導した際に20.026.6
通常の裁判に代えて15.816.6
矯正教育の中で68.46.3
更生保護の段階で45.340.0
するべきではない5.30.6
日常的な争いごと・紛争解決に15.830.9
分からない2.17.4

※(%),N=保護司;95,更生保護女性会;350,MA

4.若干の考察

a. 修復的司法について
修復的司法(restorative justice)とは;現在,司法及び関連分野を中心に世界的な広がりを見せつつある紛争解決法のことである。1974年にカナダのオンタリオ州キッチナーで行なわれたものが始まりであるとされるが,アメリカやカナダ,オーストラリア,ニュージーランドの先住民といった,非西欧社会の中で昔から行なわれてきた紛争解決法にルーツを求める研究も見られ,必ずしも一致してはいない。また,日本の学校の紛争解決法などに,そのルーツを認めるといった研究もなされている[7]。このように修復的司法は非常に多様なルーツを持つアイデアであるということができるのであるが,それと同時に,その実践形態にも様々なものがある。

修復的司法のプログラム;被害者-加害者メディエーション(VOM, Victim-offender mediation),家族集団カンファレンス(FGC, Family group conferencing),コミュニティ集団カンファレンス(CGC, Community group conferencing),コミュニティ・メディエーション・センター(CMC, Community mediation centres)などがある[8]。VOMは,文字通り,被害者のニーズ(例えば,何故他ならぬ自分が被害者として選ばれたのか,加害者は一体どんな人間なのか,などの知る権利を満たし,と同時に,直接,謝罪の言葉を聞きたいなど)を満たすことに重点を置いている。FGCは,ニュージーランドなどで行なわれている,主に少年を対象とした修復的司法であり,非行少年の処遇に核家族や拡大家族を巻き込むことによって,少年の更生を助け,再犯を予防することを目的としたもの。CGCは,主にオーストラリアの先住民を対象としたプログラムで,先住民の加害者及び被害者をサポートすることを目的としている。これは,先住民の価値観と西欧的な価値観に由来する司法原理との相互理解を目的としたものである,ということができる。CMCは,主にアメリカに見られるローカル・プログラムで,刑事から民事までをも網羅するADR(裁判外紛争処理Alternative dispute resolution)サービスを提供し,また,その他にインフォーマルな事件(例えば,学校内の問題など)をも扱う。
   ↓
このように修復的司法には,現在,様々なプログラムがあるのだが,それらを大きく系統づけると,?被害者のニーズを重視したもの,?加害者の更生・再犯防止を重視したもの,?先住民=弱者のエンパワーメントを目的としたもの,?従来の司法の不備を補い,より多様なサービスの提供を目的としたもの,に分けることができると思われる。

b. 修復的司法の定義・価値
修復的司法の定義;このように修復的司法には様々なルーツがあり,また,それぞれに少しずつ重点目標を変えたプログラムを展開しているため,簡単に概念化することが難しい状況にある。しかし,現在,修復的司法に関しては,トニー・マーシャルによって提案された以下のようなものが受け入れられている[9]

修復的司法とは,ある特定の侵害行為(offence)に対して,利害関係を有する全ての関係者が,その侵害行為によって被った影響及びそれによって将来予測し得る影響といったものを,どのように処理するか,共同で解決策を見出すために一堂に会するプロセスのことである。

修復的司法の価値;このマーシャルの定義を敷衍することにより,ジョン・ブレイスウェイトは修復的司法の主要な価値を次のように明らかにしている[10]
・ 基本的人権の尊重
・ 人間の尊厳の回復
・ 失われた財物の返還
・ 損傷を被った身体及び健康の回復
・ ダメージを被った人間関係の修復
・ コミュニティの修復
・ 社会環境の修復
・ 感情的な回復
・ 自由の回復
・ 同情や思いやりの気持ちの回復
・ 平和の回復
・ エンパワーメントや自己決定権の修復
・ 市民としての義務感の回復

このようなものがブレイスウェイトによれば,修復的司法の主要な価値になるのであるが,また,彼によれば,この他に修復的司法プロセスに参加する人たちが,互いに相手の話に耳を傾けるという傾聴行為の重要性を強調している。
   ↓
つまり,一つの犯罪という出来事によって失われたものを,従来の手続き——被告人の有罪・無罪を裁く刑事裁判と被害者への慰謝料などの請求を審査する民事裁判——のように区分けせず,また,自らが直接参加することによって,出来事をより具体的に把握すること——例えば,加害者は被害者がいかに具体的な損害や傷を負ったかということを目の当たりとし,被害者は加害者に自らの損害の個人的な意味を伝えることで,裁判では得られない象徴的な賠償(面と向かっての謝罪行為など)が得られ,コミュニティではそのような事件の加害者がモンスターではなく,一人の人間であるということを知ることができる,というようなこと——が可能となるのではないか,というのが修復的司法の論点となっている。また,修復的司法は,このような価値から分かるように,司法上の問題だけにとらわれず,地域の中での様々な紛争や企業トラブル,学校内のいじめ問題などにも用いられており,その意味において,修復的司法は関係者同士の話し合いによる問題解決を志向する,あらゆるプログラムを想定することができるのではないかと思われる。

c. おわりに;更生保護における修復的司法の可能性
今後の課題;このように,修復的司法のルーツには多様なものがあり,それと同時に,現在,様々なプログラムが存在しているといった状況にある。そうした中で,近年の司法改革論議の動きもあってか,修復的司法の手法を現在の司法システムの中で,どのように位置づけるかといった論争ばかりが先行してきてしまっているように思われる。しかし,ブレイスウェイトによる修復的司法の価値を踏まえた場合,必ずしも司法の上だけにこの手法を限定する必要はないように思われ,犯罪が発生する前,あるいは,日常的な紛争・争いごとにこの手法を用いることも十分に考えられると思う。
   ↓
例えば,今回調査した更生保護ボランティアについて見てみると,彼/彼女らは更生保護のボランティアなのではあるが,これまでの経緯や現状を見てみると,必ずしも更生保護にとらわれた活動をしてきている訳ではない。例えば,更生保護女性会では,その重要な活動の一つとして,ミニ集会という対話集会活動の経験を長い間積んできている。その原点は,戦後の一時期に海岸沿いにあった塩焚き小屋での話し合い——海水から塩を精製することを生業としていた住民の親たちに,教育の重要性を伝え,子供を学校に行かせるよう説得を試みるため,頻繁に話し合いを行なったというもの——があり,このような積極的な介入=お節介のための話し合いもまた,広い意味では十分修復的なものといえるのではないかと思われる。また,保護司会でも,保護司法が改正されてから,これまでよりもより自由な活動が可能となり,サポートチームの一員として,学校などに関わるようになっており,少しずつではあるが成果が得られるようになってきている。したがって,今後,学校などにより積極的に関わる中で,紛争やもめごと等が生じた場合,更生保護での経験を生かして,話し合いの場を設ける/あるいはそれらに参加する中?,修復的司法の価値を見出してゆくことなどが考えられるのではないかと思われる。

[1]内閣府が今年1月に行った「社会意識に関する世論調査」の「1 社会に対する意識について (5)暗いイメージ」——現在の世相の暗い側面を表すとすれば,どのような表現があてはまると思うか——では,「無責任の風潮がつよい」を挙げた者が46.8%と最も高く,以下,「自分本位である」(42.0%),「ゆとりがない」(36.0%),「不安なこと,いらいらすることが多い」(29.2%)などが挙げられている。 

[2] 法務省法務総合研究所,『平成15年版 犯罪白書』,平成15年,p.142

[3]保護司が果たして純然たるボランティアといえるのかどうか,といった議論はこれまでもなされてきた。しかし,非常勤の国家公務員とはいうものの,実質的には無給であり,また,篤志家といわれるように,ボランティア精神がなければ務まらないことなどから,「任命制のボランティア」(北澤信次,「任命制ボランティア——司法福祉領域での制度化再構築」,『現代のエスプリ』),「制度化されたボランティア」(安形静男,「更生保護の歴史に見るボランティア活動」,『更生保護』,日本更生保護協会)などと呼ばれている。 

[4] しかし,この交通費に関しても,必ずしも十分であるとはいえない。例えば,刑務所や少年院は,通常,郊外に位置していることが多く,交通の便が悪い場合が多い。したがって,自ら車を運転して行くことが多いそうであるが,その際に支給される実費は最低限のものであって,高速道路を使用した場合,完全に自己負担となるそうである。(ある保護司へのインタビューから)

[5]5号観察は,平成7年に1人が婦人補導院に収容されたのみである。(『平成15年版 犯罪白書』,p.141)したがって,「2号観察に準じて考え」ることができるという(北澤信次,『犯罪者処遇の展開—保護観察を焦点として—』,2003年,成文堂,p.3)。 

[6] 茨城県更生保護婦人連盟,『更生保護婦人会のしおり』より

[7] 例えば,John Braithwaite, 'Shame and criminal justice', Canadian Journal of Criminology, July 2000, pp.281-298. John Braithwaite, 1999, 'Restorative Justice: Asseeeing Optimistic and Pessimistic Accounts', Edited by Michael Tonry, "Crime and Justice", vol.25, The University of Chicago Press, pp.1-127 など

[8]Paul McCold, 2003, 'A survey of assessment research on mediation and conferencing', Edited by Lode Walgrave, "Repositioning Restorative Justice", Willan Publishing

[9] Tony F. Marshall, 1999, 'Restorative Justice An Overview', A report by Home Office Research Development and Statistics Directorate

[10]John Braithwaite, 2002, 'The Philosophy of Victim Support: A Restorative Justice Perspective', Presentation to Japanese Congress of Victimology and Japanese Society of Criminology, June 2002

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