0 問題意識
0-1 「カルト」現象の解釈・社会背景の説明ではなく、調査研究の諸相と問題点の指摘
0-2 特異にみえる社会問題から、社会調査一般の問題を導出
0-3 「カルト問題」という構図における調査研究の位置と役割
1 宗教社会学(新宗教研究)における基本的な問いと答え方
1-1 「なぜ信仰したか?入信したか?」「教団はどのように発展したのか?」「教団と社会との関係はどうであったか?」
1-2 どのようにして調べるか?考えるか?
1)参考資料を読んで考える:話のおちはどこでつけるのか?
2)当事者に尋ねる:語りはどこに収斂していくのか?
→先か、後か、ともあれ、理論仮説を作る必要あり
1-3 研究者のフレーミングによる解釈(アカデミズム)
1)マクロ的 貧病争等の剥奪論、人材・資金の資源動員論、宗教政策等の機会構造論等で説明: 集積されたデータに対する総合的な解釈モデル(集合行為に対する説明モデルであって、当事者・関係者の主観的解釈は除外)
2)ミクロ的 自発的信仰者モデル(どのような状況でいかに信念体系を構築したか)
相互作用・集団統制型モデル(一般の人と信者の出会い/組織内教化)
1-4 当事者・関係者自身によるフレーミングと社会的アピール(一般社会)
1)制度化された文化・社会体制からのラベリング:異端、逸脱、病理等
→当該宗教集団の反発、擁護者の出現:宗教的寛容、信教の自由
2)元信者・家族・支援団体による団体告発:「だまされた」「カルト」→訴訟
→精神病理学、臨床家とマスメディア「洗脳」「マインド・コントロール」
→当該団体の反発と訴訟における専門家証言
現在、入信理由、教団の発展要因・活動戦略、新宗教隆盛の社会背景に関わる説明には、研究者よりも当事者・関係者、メディアの発言力が強い →カルト問題の構図が作られる
2 入信研究の転換:ナラティブの構築をめぐって
2-1 入信行為において客観的事実は教団組織加入という事実のみ
入信動機・経緯は、語りの中にのみ存在する
入信動機としてのナラティブは、現在の自己を保持するための認知枠組みに依存する
現役信者に問えば、動機は教団の言説に依存的である
→信仰の構築:物語の形成 局面の研究:真如苑の研究(芳賀学、菊池裕生、秋庭裕、川端亮等)
2-2 マインド・コントロール論争(宗教社会学の反論)
元信者のだまされたという語りは脱会過程に影響を受けた
- 脱会した元信者←カウンセラー、支援グループのディスコース:マインド・コントロール
- 棄教者の心理・語り・社会関係の相互連関:だまされたという証言
- →証言に基づく記事、研究:マインド・コントロール論の根拠
- →特定教団よりは社会的アピールが強い:メディアの強い言説に
- 欧米の宗教社会学:反カルト運動、カルト言説の社会的構築の研究
1)脱会者(公認された組織)、警告者(競合する組織)、離反者(社会と葛藤した組織)
2)離反者の語りと、脱会の仕方(ディプログラム、専門家の介入)、脱会後の関係
3)反カルト運動と、カルト問題の社会的認知、制度化、専門化
2-3 論争の決着がつかない理由
- 1)程度問題(自発性/集団拘束性)の評価:文脈依存、社会関係依存、再現不可能
- →関与する諸学(心理・精神医学、社会学、法学のフレームの相違)
- 3)訴訟における総力戦(繰り出される専門家証言と訴訟費用・賠償金額)
- →資金力に勝る特定教団に対抗しうる批判団体は? つぶされないためには?
3 調査研究の困難さとは何か?どこに可能性を求めるのか?
3-1 方法をめぐる難点:ナラティブをどう扱うか?
1)ナラティブの可変性・創造性をポジティブに扱えない(心理療法との相違)
- 少なくとも、そこから事実に関わるものを拾い出すという目的があるため
- 1.誰に(信者/脱会者)
- 2.いつ(入信直後、数年・数十年後の信者生活で、脱会直後、脱会後数年を経て)
- 3.どのような状況で(誰の紹介?どこで?どのように調査趣旨を理解してもらって?)
- → ナイーブな聞き取りによる一時点の調査では明らかに限界がある
2) 「語り」と「記憶」の関係
- 1. 「複雑性外傷後ストレス障害」と「回復された記憶」論争 トラウマか記憶の捏造か
- 2. ハーマンはなぜ日本で受け入れられたのか? トラウマと回復法の明示
- *DV、カルトによる心理的虐待からの回復プロセスに極めて酷似;AC論の流行
- 3. [心理的危害→外傷→精神疾患、生きづらさ]の因果論的病因論と心理療法の差異
- *病因論と治療法は必ずしも一致しない ナラティブ、ソリューションフォーカス療法
- にもかかわらず、治療法の有効性から病院論を形成すると———
3-2 社会的実践にならざるをえない調査研究:研究者の立場性
- 1) 調査行為におけるフレームの被拘束性:
- 1.対象へのアクセス方法:「教団」側か「反カルト運動」側の仲介
- 2.どちらかの文脈依存的なナラティブをデータに
- 3.研究の公表(調査倫理に従えば、相手を裏切れない)、社会的リアクション
- 2) 立場性を自覚し、関係を資源に転化する調査方法:
- 1.調査行為自体が問題(教団/批判活動)を再生産することになる
- 2.社会的実践者の自覚・責任(研究は価値自由論/政治的活動の二元論を超えて)
4 結論
4-1 宗教社会学は現代社会学において自覚された諸問題を十分に消化し、一般の社会現象とは異なる「宗教現象」、とりわけ「カルト問題」という特殊性に対応した特異な議論を展開すべきではない。
4-2 アカデミックな、或いは体制的な言説に対する当事者/関係者による語りの優越(或いは抵抗)という方針が功を奏する局面と、逆に、事柄に対する共通の認識・実践の形成にマイナスに働く局面がある。調査研究では徹底したコミットをしても、形成されうる言説の有効性や社会的機能に関しては、デタッチメントな評価が必要であろう。従前の宗教社会学の一部には、研究そのものが価値中立的になされうるという誤解があった。
4-3 本発表では、カルト問題とは何か、なぜ、現代において論議されるようになったのかという事柄にはふれなかった。下記の拙稿を参照してもらえれば幸いである。