社会学の中の宗教研究   

大谷栄一(東洋大学非常勤講師)


本報告は、シンポジウムの基調報告として、シンポジウムの方向性を明示するとともに、1900年代から現在に及ぶ百数年間の日本社会学における宗教研究史の動向を分析することで、社会学的な宗教研究(宗教社会学)の過去と現在を問い、現代社会を問い直すための方途を提示することを目的とする。 報告者はすでに20世紀日本の宗教研究の学史研究に取り組んでおり(下記の参考文献を参照)、本報告はこれらの成果を踏まえての報告となる。

とくに今回は、1986年に刊行された宮家準・孝本貢・西山茂編『リーディングス日本の社会学19 宗教』(東京大学出版会、以下、『リーディングス』と略)を取り上げる。この『リーディングス』は、「序論 概説 日本の社会学 宗教」「第1部 宗教の社会的構成」「第2部 家・家族と宗教」「第3部 地域社会と宗教」「第4部 教団組織と宗教運動」「第5部 宗教と社会変動」の全5部構成からなり、「戦後の宗教社会学の業績のうち、日本の宗教現象に関する社会学的視点にたつ学術的な調査研究論文20編が収録」されている。収録論文は「現代性を持つもの、および古典的な論文に重点をお」くという基準の下に選択された(「はしがき」p.?)。

報告では、まず、この1986年の時点で、「戦後の宗教社会学の業績」が全5部にカテゴライズされた学史的な意味と収録された論文の学史的な位置づけを考察する(2)。次に戦前の宗教社会学の業績を『リーディングス』の目次構成に即して概観し(3)、かつ、1986年以降の宗教社会学の動向を同じく『リーディングス』の目次構成に即して整理する(4)。この作業を通じて、『リーディングス』の目次構成には当てはまらない研究領域や、これまでの研究では等閑視されていた新たな問題群を指摘することになるだろう。 具体的には、研究対象やアプローチの推移、宗教社会学の描く社会像や宗教像の変遷、宗教調査の可能性と難問、研究者と研究対象との再帰的な関係性などについて考察する予定である。

以上を踏まえて、過去と現代の社会学的な宗教研究を結びつけ、宗教社会学を再構築するための理路を探り、宗教という<鏡>を通じた現代社会論を提示したいと思う(5)。本報告は、宗教社会学という限定された領域のみならず、社会学あるいは社会科学の現状に対する問題提起にもなるであろう。

1 問題の設定
1−1)現代の宗教動向
1−2)問い直される宗教社会学
1−3)現代社会論としての宗教社会学
2 『リーディングス日本の社会学19 宗教』の分析
2−1)「日本の宗教社会学」とは?
2−2)宗教社会学の領域
3 戦前から戦後の宗教社会学の動向
3−1)学説研究から実証研究へ(1900〜1950年代)
3−2)変わる社会と宗教研究(1960〜1986年)
4 1986年以降の宗教社会学の動向
4−1)「世俗化」言説の凋落と宗教復興
4−2)オウム真理教事件のインパクト
4−3)スピリチュアリティ研究とカルト研究
5 結 論
5−1)「社会学の中の宗教研究」の可能性
5−2)現代社会から見る宗教/宗教から見る現代社会、

参考文献

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